真っ黒に塗りたくられた闇の底で、は目を覚ました。 数回まばたきを繰り返してから、回り始めた思考で現状を分析する。足場が崩れ、深い漆黒へ放り出され、が取った行動は、開発中の創作魔法。重力を分解し操作する―――簡単に言えば、空を飛ぶ魔法だった。 (今のところ、魔力消費量が半端じゃないし、操作や発動にも相当負担がかかるから、実用には程遠い代物だけど……今回はなんとかなったか) 実際には、非常に難しい状況だった。なにしろこの魔法、成功率がおそろしく低い。10回やって1回発動すればもうけものというほどだ。 は神には祈らないが、このときばかりは幸運に感謝した。 「おーい、生きてる?」 カミサマアリガトウとこころにもないことを考えていたの胸元から、声がした。 「…あれ?」 「あれ、じゃなくて。起きたんなら離してくれるかなぁ」 はそこでようやく、自分がカルラの身体を拘束していることに気づいた。両腕を離し開放してやると、カルラはさっと起き上がった。 「声かけても起きないし、身動き取れなくて困ったんだからねー?」 おかげで生きてることは確認できたけど。能天気な口調が、どこかいつもと違う色を含んでいて、はちいさく首をかしげた。 (照れてる?) もたげた疑問は、まさか、のひと言で霧散した。ありえない。カルラのキャラじゃない。キャラ云々で言ったら、気絶しているあいだもカルラを守るように抱きしめていた自分にも当てはまるが。いや、それはさておき。 「それよりも、気づいてる?」 「…まあね」 思っていたことを、カルラが先に口にした。 びりびりと、肌に感じる巨大な力。カルラやが案じていたそれが、目覚めようとしている。カルラは立ち上がり、もそれに続いた。 「…どーする?」 「って言われてもね」 はさっと肩をすくめて、カルラがいつもするように、軽い調子で言った。 「倒すしかないんじゃない?」 「…気楽に言ってくれるねー。天才魔導士サマには、なにか策でも?」 「たぶんカルラと同じ」 「……マジですか」 周囲にあるのは魔力を増幅するありがたい聖光石。この窮地を乗り切る、最大にして唯一のカードだ。 カルラも同じ結論に至っていたのだろう。言葉少ないの真意を汲み取り、いつものように笑っ―――たりは、しなかった。 薄闇でよく見えないが、伝わってくるのは、不安。あるいは恐れだろうか。どんな窮状でも不敵に笑っていた、死神カルラとは思えない。そこにいるのは、ただの少女。困難に直面し、惑う16の娘。 「逃げるって手もあるよ」 「いまさら? こいつだってこのままにしとけば外に出てくる」 「…は、いいの? このまま…あたしと心中することになっても」 「私がここにいることが答えでしょう。それに、死ぬ気は毛頭ない」 カルラは沈黙した。それがなにを求めているかを正確に把握して、は深いため息をついた。ほんとうに、こんなのは柄じゃない。 は頬が熱くなるのを自覚しながら、カルラを見据えた。 「カルラ=コルキアは、おおよそ私の知る中で一番愚かだ。ひとを厄介ごとに巻き込むわ内側は歪み切ってるわ幸福の意味は履き違えてるわ…挙げたらきりがない」 「……」 「…そんなばかを、私は守りたいんだ。どんな災厄、困難からも」 「…」 はカルラに向かって手を伸ばした。 「私はここに誓う。死神でも青竜将軍でもない、ただのカルラ=コルキアを、この知と智と血をもって守り助ける―――青の守り手≠ニなることを」 「―――うん」 竜の咆哮がとどろく闇の中。 が伸べた手を、ちいさな少女が握り返した。 青の守り手
Act.07
青の守り手
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