ケーキをご馳走になり、雑談をして、気がつけば夕暮れ。
 太陽が傾き、空の向こうから夜がやってこようかという時間帯。
 帰ろうとするを引き止めたのはアリサだった。
 何事かと首をかしげたに、アリサは送るとひと言。
 そして示したのは高町家の玄関先。そこには、いつのまにか横付けしたのか、黒塗りの超高級車があった。

「で、現在車の中にいるわけですが」
「…だれに話してんのよ」
「いや、ちょっと趣向を変えてみようかと」
「……(こいつ結構変よね)」
「(なんか今不当な評価をもらったような気が)」



魔法少女リリカルなのは SpiritS
第2話 そこはかとなく変な人々(4)



 高級車はエンジンからして違うのか、一般の乗用車と比べて恐ろしく静かな車内。3人娘はかしましくおしゃべり中だ。猫はすずかの腕の中で寝こけている。
 はそれをぽけーっと眺めながら、やべぇ私ベンツ初めて乗ったあとで自慢しよう、などと考えていた。
 すると、向かいに座っていたアリサがふいにこちらを振り向いた。

「そういえば。さっきは聞きそびれたんだけど…あんたの親って、結局なにしてるひとなわけ?」
「あ、それはわたしも聞きたい!」
「あぁー…」

 興味津々のアリサとなのは。の隣のすずかは、静かではあるものの、やはり聞きたそうな顔をしている。
 は逡巡した。言えない。というか、言いたくない。

「まあ……………発掘?」
「なにその間」
「発掘…って、どんなお仕事?」
「えっと…考古学かしら」
「学者さんなの?」
「広い意味で言えば、そんな感じ?」
「狭い意味では?」
「……。………。…………夢とロマンを追い求めるさすらいのひと」
「はあ?」
「わかった、インディ・ジョーンズ!」
「あんたそれは映画の話でしょうが!」
「(あながち外れてないから怖いね、高町さん)」

 きらきらした目で核心を突いてくるなのはに、頬を引きつらせた。
 アリサはまだ納得していないのか(当たり前だが)、腕を組んでを睨んでくる。ちょっと怖い。
 さらなる追求を恐れ、は早々に話を変えることにした。

「えっと、…ところで、アリサの両親はなにを?」
「うち?(こいつ話題変える気ね)」
「(やべぇもろバレてる気がする)うんうん」
「(しょうがないわね…怪しいけどこのくらいにしておくか)…うちは、会社経営よ」
「(見逃された…)…やっぱブルジョワか」
「(なんか…変な空気?)アリサちゃんのおうち、すっごくおっきいんだよ。すずかちゃんもすごいけど」
「(アリサちゃん、ちゃんのことが気になるのね)そんなことないよ。うちは、たいしたことないよ」

 それぞれ思惑はあれど、互いの思いやり精神が(おもににとって)いい方向に向いた。
 アリサの追求を逃れたは内心で安堵して、ブルジョワジーな小学生2人を半眼で見やった。

「格差を感じる」
「気のせいよ」
「高町さんの家も道場持ちだし」
「えぇ!? うちはそんなんじゃないよ。道場があるっていうだけで、あとは普通」
「なのは、あんたそれうちが普通じゃないって言いたいの?」
「そ、そんなこと言ってないよ! アリサちゃんの意地悪!」
「まあまあ、ふたりとも、それくらいで…」

 言い合いに発展しそうなところを、すかさずすずかが宥めに入る。とても慣れた様子だ。仲良し3人組の関係は、なかなか観察のしがいがある。
 騒ぎに目が覚めてしまったのか、猫がすずかのひざの上であくびをかました。
 それをなんとなく見ていると、視線があった。

 にゃあ。
 おはよう。よく眠れた?
 にゃあにゃあ。
 …あんたはいいね。気楽で。
 にゃにゃ?
 私? 私はね、いろいろあるんだよ。
 にゃあー。
 励まさんでいい。
 にゃごにゃご。
 相談に乗る? ありがたいけど、やめとくわ。
 にゃあ?
 だってあんた、一発キャラだし。

「にゃにゃにゃー!?」

 衝撃の事実に目を剥く猫。
 突然の声になのはたちが色めく。

「なっ、なに、どうしたの?」
「急に騒ぎ出したわね、猫」
「落ち着いて。どうしたの? なにかあった?」

 すずかがやさしく頭を撫でながら声をかけると、猫は器用にも悲しげな表情でうつむいた。

「にゃ…にゃぁぁぁ」
「…なんか、落ち込んでる?」
「よくわかんないけど、そうみたいね」
「えっと……元気出して」

 疑問符いっぱいのなのはと、不可解そうなアリサ。
 すずかに背を撫でられながら、猫はぐったりと突っ伏した。
 はというと、その間、一切猫に声をかけることはなかった。

(っていうかいまさらだけど、私、なんで猫と意思疎通できてんだろ)

 しかも目だけで。
 霊感だけでなく、こんなところまで無駄なスキルを持っているのか。
 ちょっぴり目頭が熱くなった出来事だった。



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up data 08/09/15