(一方的な)再会を果たした韋駄天親子と自己紹介を済ませ、たちはそれぞれ席についた。紅茶のいい香りが漂ってくる。
 全員がいすに座ったところで、ティータイムが始まった。



魔法少女リリカルなのは SpiritS
第2話 そこはかとなく変な人々(3)



 手を合わせて、さっそくケーキを口にしたアリサたちが、揃ってしあわせそうな顔をする。

「おいしい!」
「本当に。相変わらず翠屋は最高」
「ふふ、ありがとう。ほら、ちゃんも、遠慮しないでどうぞ」
「は、はあ…いただきます」

 も彼らに習ってフォークを手にする。
 一口、ショートケーキを含んだ瞬間、表情が変わった。

「どう?」
「…おいしいです」
「そう? お口に合ってよかったわ」

 甘いものといえば大福、お茶といえば緑茶のにも、そのケーキがそんじょそこらものとは違うことは一口でわかった。
 やわらかいスポンジに乗ったクリームは甘すぎることはなく、口の中でほどよく溶けて、紅茶を飲めば互いを引き立てる。
 中に挟んでいるいちごもいいものを使っているようで、酸味とクリームの甘さがマッチしていて―――まあ要するに超うまい。

「これって、どこのお店なんですか?」
「ああ、そういえばには言ってなかったっけ」
「え?」
「にゃはは。うちのおとーさんとおかーさんは、喫茶店をやってるんです」
「喫茶翠屋っていえば、このへんでは有名なお店なの。なのはちゃんのお父さんとお母さんは、そこのオーナーとシェフをやってるのよ」

 の問いに、アリサ、なのは、すずかが順番に答えてくれる。
 は向かい側のふたりを見た。桃子と、士郎と名乗ったなのはの父が、それぞれ穏やかに微笑んだ。
 道場をやっているだけあって、がっしりとした体格をしている士郎が、喫茶店のオーナーとは。
 似合うような似合わないような。

「うちの店は駅前にあるからね。どうぞごひいきに」
「あ、はい…機会があれば、そのうち」

 の受け応えに、士郎の隣の少女―――なのはの姉、美由希が変な顔をした。
 気になって視線を向ければ、ちょっと苦笑気味の顔。

「いやー、なんかちゃんって、しっかりしてるよね」
「ああ、たしかに」

 さらにその隣の長男、恭也が同意する。

「なのはと同い年とは思えないな」
「って、おにーちゃん、それどういう意味ですか?」
「なのはが子どもらしいって意味さ」
「…それ、子どもっぽいってことじゃ…」
「お、気づいたか」
「気づきますよ!」

 ぷぅ、と頬を膨らませるなのはに、一同から笑いが沸く。
 仲のいい兄妹だなぁと思っていると、横顔に視線を感じた。士郎だった。

「本当にしっかりしているよね。挨拶もきちんとしているし」
「いえ、それほどでも…」
「引っ越してきたばかりと言っていたけど、ご両親の仕事の都合かい?」
「えーと、まあ、そんな感じです」
「今朝私たちを見たと言っていたね。きみもジョギングを?」
「趣味です」
「そうかい? そのわりには―――武道もたしなむようだが」
「―――…」

 思わず目を見開いた。
 の反応に、満足げに士郎が笑う。
 驚いたのはだけではなかった。なのはやアリサ、すずかも、意外そうにを見やる。

「へえ? あんたそうなの?」
「すっごく上手に木登りするから、運動神経いいんだなー、って思ってたけど…」
「武道って、空手? それともほかに?」
「ああ、いや……なんでわかりました?」
「うん? まあ、重心の取り方がね」
「はあ……。ちょっとかじった程度なんで、たしなむと言えるほどでもないですよ」

 なんとなく、高町家の大黒柱、そして長男長女から妙な視線を受けて、は居心地悪そうに身じろぎした。
 そんな視線を一散させたのは、見かねた桃子の一声だった。

「…あなた」
「うっ…」

 士郎はあわてて笑みを作って、「いやー、ごめんごめん、ついね」と頭を掻く。恭也と美由希も急いでから目をそらし、それぞれ紅茶を飲むふりでごまかしていた。
 高町家のヒエラルキーが見えた一瞬だった。

「あー…えぇと。そうだ。喫茶店って言ってましたけど、猫は大丈夫なんですか?」

 なんとなく気まずい思いで、苦し紛れに話題を振ると、桃子がにっこり笑って言った。

「本当はよくないんだけど…飼うわけじゃないから」
「そうだ。あの猫、どうするの?」

 アリサの問いには虚空を見やる。

「ん、まあ…飼い主を探すよ」
「飼うことはできないの?」

 こちらはすずかだ。

「できなくはないけど。あんまり気は進まない。うちって転々としてるから、ここにもいつまでいるかわかんないし…」
「そっかぁ…」

 なのはが眉を下げて、見るからに心配そうな顔をする。
 アリサとすずかが、なにやら目配せをした。首をかしげてそちらを見ると、すずかが口を開いた。

「ねえ、ちゃん。もしよかったら、うちで預かろうか?」
「月村さんが?」
「あ、そっか。すずかちゃんって、猫いっぱい飼ってるもんね」
「そうそう。捨て猫とかどんどん拾ってくるから、いまさら1匹くらい増えても、って感じよね」
「……ちなみに、どのくらい?」
「えっと…」

 人差し指を頬に当てて、天井を見上げて首をひねる。
 美少女でなければ許されないような、かわいらしいしぐさを披露したあと、すずかは答えた。

「今は、13匹くらいかしら」
「……(どんな猫屋敷だよ)」

 とりあえず、問題はないようだった。



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up data 08/09/15