「これでよし、と」 「す、すみません…」 「ありがとう、おかーさん!」 「ふふ、いいのよ。結構深いみたいだから、ちゃんと病院で診てもらってね」 「…はい」 にっこりと笑うと、女性は救急箱を抱えて部屋を出ていった。 それを見送って、は部屋を見回す。ツインテール少女の自室だと思うが、暖色系でまとめられ、窓際にはかわいらしいぬいぐるみが並べられている。典型的な女の子の部屋だ。 暖かみがあって、やさしくて、心地よい。初対面の彼女の印象そのままだった。 部屋というのは主の人格を映す―――どっかのバカオヤジがそう言っていたのを思い出す。ついでにその主張での部屋に妙な人形やら絵やらを飾ろうとしたことも。 全力で阻止したが、まだ諦めていないのか、今でもその手のものを送ってくる。家に飾ってネ☆≠ネんて手紙とともに。もちろん専用の錠前つきの部屋に放り込んでいるが。 いやなことまで思い出してしまい、顔をしかめていると、金髪少女がおもむろに口を開いた。 「さーって、それじゃあ、遅くなったけど」 そのあとをツインテール少女が継ぐ。 「自己紹介、しようか」
第2話 そこはかとなく変な人々(2)
「じゃあまず、わたしから。高町なのはです。よろしくね」 ツインテールがにこりと笑う。それにしてもよく笑う子だ。人当たりもいいし、ひとと接することに慣れた感じがする。 海のような深い瞳は、表情豊かで、出会って間もないが、いろんな色を見せてくれた。 ほかふたりに比べると、ぱっと見は普通の小学生の印象を受ける。けれど、さっき見せたような押しの強さも持っている。容姿は、母親があれだ。将来は美人さんになるだろうなとは予想した。 「アリサ・バニングスよ。ま、よろしく」 金髪をかきあげて言った少女は気が強そうで、存在感がある。どことなく迫力があるのは気のせいではないだろう。 こちらは一目見てそれとわかる美少女だ。 堂々としているわりには、さっきからと一定の距離を置いている。案外人見知りをするタイプなのかもしれない。 「月村すずかです。えっと、怪我は、どう?」 最後に、黒髪の少女が名乗った。見るからに大人しそうで、落ち着いた雰囲気を持っている。 が助けた猫を抱いた両手はずいぶん触りなれているようで、猫もすずかの腕の中では大人しくしている。 「ん、大丈夫。痛みはないし。…私は。昨日こっちに越してきたばっかりなんだ」 「そうなんだ。えっと、年は? 同じくらいだよね?」 なのはが好奇心をむき出しにして質問してくる。 「うん、たぶん。今年小学3年だから」 「あ、やっぱり同じだ!」 なにがうれしいのか、満面に笑顔を浮かべる。 今度は隣で聞いていたアリサが入ってきた。 「学校は? 転校してくるのよね?」 「うん。私立なんだけど…聖祥大学付属小学校に」 「えぇっ?」 「? なに?」 それぞれが驚いたように目を見張る。 首をかしげるに説明したのは、いち早く立ち直ったアリサだった。 「あたしたちも、みんなそこに通ってるのよ」 「すごい偶然ね」 「じゃあ今年からちゃんと一緒なんだ!」 なのはがますますうれしそうに笑っている。 それを見たすずかも、釣られたようにほほえんでいる。 アリサは相変わらずだが、友だち2人が笑いあっているのを見つめるまなざしは、暖かい。 (ほんとに仲がいいんだなぁ) 仲良きことは美しきかな、としみじみ思っていると、ふいに、部屋がノックされた。 「あ、はぁい」なのはが答えながら扉を開ける。 「おやつの用意できたわよ。下りてらっしゃい」 「うん!」 元気よく返事をするなのはを見て、は立ち上がった。 「あ、じゃあ、私はこれで」 「…え?」 「え?=H」 「ちゃんも食べるんだよ、おやつ」 「…え?」 「え?=H」 「「……」」 「…ほんとにあるよ」 「? ケーキ嫌い?」 「いやそうじゃなく…まあいいや」 なのはに手を引かれてリビングに下りてきたは、そこに用意されたケーキと紅茶に頬を掻いた。 当たり前のように家に上げ、当たり前のようにおやつを用意する。それも、名前も知らない子どもの分まで。 なんというか、ずいぶん開かれた家庭で育ったのだなぁ、とあらためて納得。これならなのはの人格がこうなるのもうなずける。 会ったばかりだけど。 「あ、なのは。お兄ちゃんたち呼んできてくれる? 道場にいると思うから」 「はーい!」 母の言葉に従い、なのはが駆けていく。 「…道場?」 その背中を見送って、アリサを見やった。 「ここんち、道場があるのよ。お父さんとお兄さんとお姉さんが、剣術やってるみたい」 「っていっても、弟子はそのふたりしかいないんだけどね」 エプロンで手を拭きながら、なのはの母が近づいてきた。 の前でひざをつき、おだやかな目で笑う。 「さっきは自己紹介しそびれちゃったわね。なのはの母の、高町桃子です」 「あ…です。さっきはありがとうございました」 「どういたしまして」 この親にしてこの子あり。 笑い方がなのはとそっくりだ。いや、なのはがそっくりなのか。 桃子に勧められて椅子に座ったところで、なのはが戻ってきた。 「連れてきましたー」 なのはの後ろについてきた人物に目を向けて、は固まった。 「…あ」 「ん?」 男2人に女1人。それは間違いなく、今朝見かけた韋駄天親子だった。 |