いとしき貴女へ その日いちにち、校内は妙に浮かれた雰囲気だった。 ほのかに漂うこれは、チョコレートの匂い。 2月13日。バレンタインデーの前日だけど、今日チョコを渡す人も少なくない。 なにしろ、明日は大きなイベントがあるから、今日のうちに渡しておかないと、渡しそびれるだろうから。 バレンタインデーは、日本の年中行事のひとつと言っても過言じゃない。と思う。たぶん。 たしか、外国では男の人からプレゼントを贈るところもあるって聞いたな。 私はぼんやりとそんなことを考えながら、廊下を歩いていた。 それにしても本当に、ふしぎなくらいみんな浮き足立っている。 まあ私も、ひとのこと言えた義理ではないけど。 かばんの中に納まっている、数個のチョコレートは、後輩や同級生からもらったものだ。 もちろん義理チョコだとは思うけど(本気ではないだろう、たぶん)。 こういうイベントは、楽しんだ者勝ち。 お祭り気分に後押しされて、本命チョコも渡せることもある。 事実、バレンタインやクリスマスに姉妹が誕生する確率が高いらしいし。(新聞部調べ) やっぱりそういう意味では、お祭り騒ぎは必要なんだろうな。 ―――なんて、一人で納得していたら、視界の端に見知った人影を見つけた。 私は、 声をかける。 急ぐので通り過ぎる。 |