いとしき貴女へ 「痴漢というかセクハラ?」 「もー、いきなり抱きつかないでよ!」 「いやいや、ごめんごめん。それにしてもさん、ちょっと悲鳴のあげ方考えたほうがいいよ?」 「余計なお世話!」 あー、もう恥ずかしいなぁ。 私は前髪をぐしゃ、と掻きあげて、ため息をついた。 これからは気をつけよう。 っていうか、さすがに「ぎゃあっ」はないよね、ほんとに。 可愛げなくても「うわぁ」くらいにしといたほうがいいよね。うん。 「でも、聖さんももうちょっと控えないと、いつか痴漢で逮捕されるよ」 「大丈夫だよ。選んでやってるから。反応面白いひと限定」 「じゃあ私が訴えてやる」 「すみませんでした」 深々と頭を下げてくる聖さん。 まあ許してやるか。ぜったい口先だけだけど。 聖さんは「ちぇー」と拗ねたように唇を突き出すと、小さく呟いた。 「この様子じゃ無理かなぁ…」 「? なにが?」 首をかしげると、聖さんは口元をにやりと歪めて、私に訊ねてくる。 「ねね、私になにか、渡すものない?」 期待に輝く聖さんの顔を、半眼で見つめた。 ある ない |