いとしき貴女へ 「ない」 あるわけないでしょ。―――そう答えると、聖さんはがっくりと肩を落とした。 「予想はしてたけど、かなしーよー」 「聖さんその分ほかからもらってるじゃない。なんで私からわざわざ」 「さんだから意味あるんだよ」 「はいはい」 「嘘じゃないのに」 「わかったからどっか行って。私もう帰るんだから」 しっしっ、と野良猫を追い払うようなしぐさをすると、聖さんが私にもたれかかってきた。 あー…。 「さんつれなぁい」 「もぉ、重いってば、だから」 早く帰りたいんだけどなぁ。 私は困り果てて、虚空を見やる。 どうやってこれ≠どかそうかと思案していると、向こうから見覚えのある人が歩いてきた。 目が合う。彼女は微笑しかけて、私の背後の人物に気づいた。 途端に彼女が呆れ顔で、ため息を零す。 「…聖、なにやっているの」 幾分か冷たい声に、聖さんが顔を上げた。 つぎへ |