いとしき貴女へ 「ない」



 あるわけないでしょ。―――そう答えると、聖さんはがっくりと肩を落とした。
「予想はしてたけど、かなしーよー」
「聖さんその分ほかからもらってるじゃない。なんで私からわざわざ」
さんだから意味あるんだよ」
「はいはい」
「嘘じゃないのに」
「わかったからどっか行って。私もう帰るんだから」

 しっしっ、と野良猫を追い払うようなしぐさをすると、聖さんが私にもたれかかってきた。
 あー…。
さんつれなぁい」
「もぉ、重いってば、だから」
 早く帰りたいんだけどなぁ。
 私は困り果てて、虚空を見やる。

 どうやってこれ≠どかそうかと思案していると、向こうから見覚えのある人が歩いてきた。
 目が合う。彼女は微笑しかけて、私の背後の人物に気づいた。
 途端に彼女が呆れ顔で、ため息を零す。
「…聖、なにやっているの」
 幾分か冷たい声に、聖さんが顔を上げた。



つぎへ
---------------------------
up data 05/2/13