いとしき貴女へ 「ある」



「…あるよ」
 しぶしぶ答えた。
 すると、聖さんの顔がいっそう明るく輝く。
「ほんとに? やった!」
 ああー、なんか悔しいなぁ。
「…そんなに喜ばないでよ」
「なんで? 嬉しいもん。喜ぶに決まってるでしょ」
 満面の笑みできっぱり言われてしまい、私は照れくさくなって顔をそらした。

 はあ。なんか見透かされてる気分。
 さっそく手を伸ばして、「ちょーだい」の合図をしてくる聖さんを、もう一度半眼で睨んで、私はかばんからそれを取り出した。
 ぽす、と伸ばされた手のひらにそれを乗せると、聖さんは嬉しそうに受け取った。
「ありがと!」
「どういたしまして」
 ため息混じりに答えると、聖さんは「それにしても、」と私を見た。

「なんで早く渡してくれなかったの? 今日何度も会いに行ったのに」
 接触率がやたら高かったのはそのせいか。
 私は一日を振り返って、また嘆息した。
「…渡す気なかったのよ」
「えーっ、なんで? 持ってきたのに?」
「今朝までは渡すつもりだったけど…聖さん、ほかにもいっぱいチョコもらってたじゃない。だから私のはいいかと思って」
「なに言ってるの! さんからもらえなかったら意味ないよー」

 私は赤くなった顔を見られたくなくて、顔を背けた。
 …なんでこう、素直なセリフを吐くんだろうか。
 性根はひねくれてるってのに。

 突然呼び捨てで呼ばれ、驚いて振り向いたときには、私はすでに彼女の腕の中だった。
 …うあー、もう。

「聖さん」
「ありがと」
「…それさっき聞いたんですけど」
 照れ隠しにひねた言葉を返すと、聖さんが少し笑う気配がした。
「そうじゃなくて。妬いてくれたんでしょ?」
「……」
 図星だけど素直に認めたくない。
 聖さんはそんな私を見透かして、今度は声を上げて短く笑った。

、ありがとう。…好きだよ」

 私は聖さんの肩口に額を押し付ける。
 まだとうぶん、聖さんには勝てないみたいだ。



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up data 05/2/13