いとしき貴女へ 「見送る」



 蓉子さんは早足で教室を出て行った。
 しっかし、ほんとに珍しいなぁ、蓉子さんが。
 なんて思っていると、教室の後ろのほうから、声がかかった。
さん?」
 振り向くと、そこには江利子さんが立っていた。

 江利子さんは私と教室の外を一瞥して、言う。
「さっき、蓉子とすれ違ったけど…」
「ああ、うん。忘れ物取りに行ったんだよ」
「蓉子が? ふぅん…珍しいわね、彼女が」
 江利子さんまでが呟いたのを聞いて、私は思わず笑ってしまった。
 やっぱりみんな、そう思ってるんだなぁ。

「それじゃあ、なにもなかったわけね」
「え? なにも、って?」
 首をかしげて訊き返すと、江利子さんは肩を竦めて首を振った。
「なんでもないわ」
 ? なんだろう。

 気にはなったけど、江利子さんが言うつもりがないのがわかって、私も口をつぐんだ。
 あ、そうだ。

「あのさ、江利子さん、」

 声をかけて、私は、


「渡したいものがあるんだ」
「先生、呼んでたよ」



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up data 05/2/13