いとしき貴女へ 「見送る」 蓉子さんは早足で教室を出て行った。 しっかし、ほんとに珍しいなぁ、蓉子さんが。 なんて思っていると、教室の後ろのほうから、声がかかった。 「さん?」 振り向くと、そこには江利子さんが立っていた。 江利子さんは私と教室の外を一瞥して、言う。 「さっき、蓉子とすれ違ったけど…」 「ああ、うん。忘れ物取りに行ったんだよ」 「蓉子が? ふぅん…珍しいわね、彼女が」 江利子さんまでが呟いたのを聞いて、私は思わず笑ってしまった。 やっぱりみんな、そう思ってるんだなぁ。 「それじゃあ、なにもなかったわけね」 「え? なにも、って?」 首をかしげて訊き返すと、江利子さんは肩を竦めて首を振った。 「なんでもないわ」 ? なんだろう。 気にはなったけど、江利子さんが言うつもりがないのがわかって、私も口をつぐんだ。 あ、そうだ。 「あのさ、江利子さん、」 声をかけて、私は、 「渡したいものがあるんだ」 「先生、呼んでたよ」 |