いとしき貴女へ 「渡したいものがあるんだ」



「え?」
 軽く目を開く江利子さんの前で、かばんに手をやる。
 中から黄色い包装紙でラッピングした箱を取り出し、江利子さんに差し出した。
「はい、これ」
「これって…」
「チョコレート」

 江利子さんはそれを手に取り、私と見比べる。
 一応、気合を入れてラッピングしたので、たぶん伝わるはずだ。
 それが本命であることが。

 江利子さんは私を見ると、ようやく、微笑した。
「驚いたわ」
「そりゃそうだろうね」
 私は微苦笑して答える。同級生から(しかも同性)本命チョコをもらうなんて、人生であるかないかだろう。
 そんな私の同意に、けれど江利子さんは、そうじゃなくて、と続けた。

さんは、蓉子に渡すものだと思っていたから」
「へっ?」
「よく一緒にいるじゃない。だから、蓉子が好きなんだと思っていたわ」
 苦笑のような顔をする江利子さんに、私は頬を掻いた。
「えっと…蓉子さんには、いろいろと相談に乗ってもらってただけなんだけど…江利子さんのことで」
 すると、江利子さんは驚いたように、目を見開いた。

 それからすぐにため息をついて、言う。
「蓉子ったら、どうしてそう…自分だって……」
「?」
「…なんでもないわ。とりあえず、蓉子には感謝ね」
 さっきの呟きが気になったけど、私はなにも言わず笑い返した。
 江利子さんが、珍しく本当に嬉しそうな顔をしてくれたから。



---------------------------
up data 05/2/13