いとしき貴女へ 「先生、呼んでたよ」 「そうなの? ありがとう、じゃあ私は行くわね」 「うん、じゃあまた明日ね」 ごきげんよう、と交わしあって、私たちは別れた。 さーて、用事も済んだことだし、私もそろそろ帰ろうかな。 かばんを手にとって、私は教室を出た。 帰ったらなにしようかな、なんて考えていると、廊下の向こうからだれかがこっちに歩いてくる。 あー、あの目立つ容姿は…聖さんだ。 「あっ。おーい、さーん!」 聖さんは私を見つけると、ぶんぶんと手を振って、あろうことか駆け寄ってきた。 私はため息をついて、目の前にまで来た聖さんを見上げる。 「聖さん、シスターに見つかったら怒られるよ」 「ばれなきゃ平気だって」 まったく反省の色なし。まあ期待してないけど。 「それよりさん、これから予定ある?」 「え? ないけど、それがどうかした?」 聖さんはぱっと顔を輝かせると、私の両手を握りしめた。 「デートしよ!」 「…はぁ?」 思いっきり怪訝に訊き返すと、聖さんが不満そうに唇を突き出す。 子どもかあんたは。 「さん、なにその反応。もうちょっと喜んでよ」 「あのね、いきなりデートとか言われても」 「予定はないんでしょ?」 「そりゃそうだけど…そうじゃなくて」 一年かけて、この人ずいぶんマイペースになったなぁ。 なんて、内心感心しながら、嘆息した。 「なんでいきなりそんなこと言い出したの?」 「いきなりじゃないよ。前々から考えていたこと」 前々から? 首をかしげると、聖さんはにっと笑って、私に顔を近づけた。 「バレンタインデーでしょ? 食べたらなくなるチョコレートより、こっちのほうがいいと思わない?」 食べたらなくなる…まあたしかにそうだけど。 私は思わず苦笑してしまった。 ほんとに聖さん、性格変わったなあ。それとも、こっちが本来の姿なんだろうか。 まあ、どっちでもいっか。 「わかったよ。それじゃ、放課後デートと行きましょうか」 「よし、決まり! そうと決まれば、さっさと行こう!」 「あー、わかったから引っ張らないでよ!」 子どものように嬉しそうに笑う聖さんの横顔を見て、私はまたひとつ、ため息をついた。 こんな顔をする聖さんは、嫌いじゃないから。 |