いとしき貴女へ 「友だちから」 「友だち?」 戸惑った顔のまま、蓉子さんが訊き返す。 「うん。友だちにね、渡してくれって頼まれて」 友だちのチョコとはいえ、だれかに渡すのってこんなに緊張するんだ。 おまけにそれが本命ともなれば、なおさら。 もしも受け取れない、なんて言われたらどうしよう。 そんな私の不安を見透かしたように、蓉子さんは微笑った。 「ありがとう。―――って、その人に伝えておいてくれる?」 私のチョコを受け取るその動作は、慣れたものだった。 さすがに薔薇さまともなると、受け取るチョコの数も半端じゃないんだろうなぁ。 とくに蓉子さんは、全校生徒から総合で人気の高い薔薇さまだし。 チョコを受け取るなんて慣れているんだろう。 「それじゃあ、私はもう行くわね」 「うん。ごきげんよう」 ごきげんよう、と蓉子さんは微笑んで、教室を出て行った。 私、すごい人と友だちなんだよなぁ。…いまさらだけど。 「蓉子も大変ね」 「うん、そうだね」 ―――って、はい!? 突然の声に、私は仰け反った。 「んなっ!? って、え、江利子さん!?」 「あらいい反応」 「いい反応≠カゃない! 気配消して背後に近づかないでよ! っていうかいつのまに!?」 「さっきから居たわよ」 えぇ!? 「で、でも蓉子さんは」 「隠れていたから」 「あんたは忍者か!」 「いいツッコミね」 「だから…!」 私はツッコミ切ることもできず、膝に手をついて崩れた。 ああ、もぉ…ッ、江利子さんってなんでこう…! 「それにしても」 私の様子を無視して、江利子さんが(勝手に)会話を続ける。 「びっくりしたわ」 「そりゃこっちのセリフだ」 「それはそうでしょうね。そうじゃなくて、さんが」 江利子さんがこっちを見やって、目を細めた。 つぎへ |