少女の歌声が戦場にひびき渡る。その様を視界の端に入れながら、おのれもその手に握った剣であまたの命を屠っていく。敵を切り裂く感触と音に、その行為の罪深さをも刻みつけながら、何度も、何度もふるう。
 すべての敵が血溜りに落ちて、残ったのは一瞬の静寂。奪った命の分だけ、肩は重くなる。それでも立っていなければならない、それが己に課したつぐないのひとつなのだから。

「ルーク」

 美しい声が罪人の少年の耳朶を打つ。ああ、どうして。どうしてこの少女の声は、こんなにも美しいのか。その声はこの手に握りしめた剣と同様に、傷つけ、奪うための武器なのに。なぜこんなにも、このこころを暖めてしまうのか。

「行きましょう、急がないと」

 冷めた青い瞳が少年を見つめる。その奥に気遣わしげな光りを見つけた少年は、一瞬目を伏せると、ちいさくうなずいた。
 わかってるよ、ティア。醜くかすれた声は彼女とは比較もできないほどで、彼は何度目になるかわからないおのれへの失望を繰り返した。
 少女はそれ以上なにも言わず、少年を一瞥すると、背を向けた。その後姿さえ、心打つ。

 少年は探していた。身体の奥底から溢れるように、ひたすらかの美しい少女へと向けられる、この、祈りにも似た感情の名を。




世界でいちばん美しいきみよ



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up data 07/03/21