ちらちらと降る雪の向こうに、彼はいた。
 座っていた。
 私はその背中を見ていた。
 ただ、見ていた。

「ティア」

 声が、する。彼の声だった。なつかしい。(なつかしい?)

「ティア、おれさ、しあわせだよ」
「ルーク」

 声はほほえんでいた。顔は見えなかった。
 見たいと思った。でも、見えない。
 雪が降る中、座っている背中だけが見える。

「ほんとうにしあわせだ」

 声はおだやかだった。
 ひたすらまっすぐに、しあわせだとつぶやいて、消える。
 ああ、かなしい。(かなしい?)

「たくさん、殺した。でも、それでもおれはしあわせだと思ってしまったんだ。ガイが、ナタリアが、ジェイドが、アニスが、イオンが、…ティアが、みんながいて」

 しあわせだったんだ。―――なぜ、そんなふうに言うのだろう。
 もう終わってしまったことのように。

「だから、ティア、」

 聞きたくないと思った。それ以上。
 聞いてしまったらなにもかも壊れてしまうと。
 だから耳をふさいだのに、声はまるで頭の中に響くように、聞こえ続けた。

「ありがとう」

 耐えられなくて、ひざをつく。
 積もっていたはずの雪が、そこにはなかった。
 上を見上げる。雪は降り続けている。
 それなのに、それは途中で泡のように消えてしまって。

「ルーク」

 あえぐように呼ぶ。返事はない。

「ルーク、ルーク、ルーク」

 ルーク。
 降っていたのは雪ではなかった。
 降っていたのは光りだった。
 あの日天へ昇って消えた、ひとすじの光り。
 聖なる焔の。

「ありがとう」

 世界が、はじけた。



「―――」

 静寂が満ちる部屋の中、自分の荒い息だけが聞こえていた。
 重くベッドに沈む身体は、指一本動かせない。

(るー、く)

 こみ上げてきたものを必死で飲み込んで、目を閉じた。
 逢いたいと想う。声を聞きたいと、その顔を見たいと。
 泡のような儚い笑い方じゃない、ひたすらしあわせに笑う彼を見たかった。

(はやく、はやく、かえってきて)

 でないと私は泣いてしまう。
 あなたがいないと、泣いてしまうから。


帰ってきて、私が認めてしまう前に



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up data 07/05/29