まずい。 そう思ったときにはもう遅かった。ルークと呼ぶ声を最後に意識が途切れて、衝撃とともに目を覚ますと、暗い森の奥。 ルークは起き上がって辺りを見回して、危険がないことを確認してから自分の状態を確認した。意識ははっきりしている。けがは、いたるところが痛むけれどこんなのたいしたことじゃない。 魔物に吹っ飛ばされて、着地したところがたまたま昨日の雨でぬかるんでいて、その上すぐ後ろは崖。案の定ルークは体勢を崩してまっさかさまに落ちてしまったのだ。なんだかここのところついていない。命があっただけましだろう。 ルークはひとつため息をついて空を仰ぐ。あたりは薄暗いけれど、それは木々が光りを邪魔しているせいだ。日はまだ高いようだから、気絶していたのはたぶん数秒くらいだ。 (…どうしよう) 歩けないことはないけれど、へたに動き回ればよけいに迷いそうだ。 ただでさえ自分は、方向音痴と仲間たちに言われつづけているのだから。 ここでじっとしていたほうがいいかな。そうすればみんなが探してくれる。 ―――ほんとうに? どこか深いところで声がした。 その瞬間、背筋が凍りつく。 ほんとうに? ほんとうに探してくれる? 魔物の攻撃を受けたあげく迷子になるようなこんな自分を彼らが? ≠、ほろぼしたおれ、を? 吐き気がこみ上げて、とっさに口元を押さえる。 探してくれるのかほんとうに彼らはおれを探すのかこんな深い森のなかをおれひとりのために探し回るのかそんなことしてくれるのかこのまま行っ(やめろ、)てしまうのではないかだっておれは、(やめろやめろやめろ!) ひとごろし「やめて…ッ」 なさけなく崩れそうなかすれた声を出してうずくまった。 そうして耳をふさぐけれど内側から問いかけてくる声に、抗うすべなどもとより、ない。 大丈夫だよ大丈夫だよだってガイは言ったじゃないかおれを友だちだって。(復讐者なのに) ジェイドもアニスもわかってくれてるはずだおれがいなくちゃ降下作業ができないって。(でもほかにも方法はあるのかもしれない) ナタリアはやさしいんだだからおれのこと簡単に捨てるはずが。(だけど彼女のルーク≠ヘおれじゃないしユリアシティに彼女はいなか、った) イオンはいつもおれにやさしくしてくれて笑ってくれてそうだあいつなら。(でもほんとうにほんとうにそうなのかあいつもほんとうはおれのこと呆れてるんじゃないか) ミュウはそうだミュウならおれのこと探してくれるいつだって一緒だったから。(だけどおれはあいつにやさしくしただろうか) ティアとはだって約束したじゃないかおれのこと、 「ルーク!」 ―――見ていてくれる、って。 「ティ、ア…」 「ルーク? どうしたの、顔が真っ青よ! どこか怪我でもしたの? 痛むところは?」 「ティア……みん、なは、」 「無事よ。いま手分けして探していて…アルビオールにアニスとイオン様が待機してくれているから。それよりも、いま治療を―――ッ?」 ルークは青ざめた顔のままティアの肩に額を押し付けた。 突然の子どもの行動に、ティアは彼を抱きとめて、首を捻る。 顔を覗き込もうとするとルークはそっと目を伏せて、朱色の髪に表情を隠す。 「…ルーク? どうしたの?」 傷が痛むのかと訊いても、ただ首を振るばかりでなにも言わないルークは、ひどく憔悴した様子でティアの不安を掻き立てる。 「ルーク…?」 「ティア、約束、したよな。おれのこと、」 「…えぇ。あなたのこと、見ているって」 「うん…」 「…ルーク、なにがあったの?」 「………なんでもない」 「ルーク!」 顔をあげたルークは引きつった微笑を浮かべていて、けしてなんでもない≠ネんて様ではなかった。 咎めるように発したティアの声をけれどルークはやんわりと拒絶して、立ち上がった。 「行こう。みんなが待ってるんだろ?」 「ルー「ティア、おれ、」 がんばるから。―――先に立って歩き出したルークの表情をうかがい知ることはできず、ティアはぎゅっと心臓をつかまれるような気持ちで彼の背中を見つめた。 ルークはもう一度、「がんばる」とつぶやくと、振り返ってティアに笑いかけた。 「だから大丈夫だよ」 |