彼女はとてもかがやいていて、私にはすこし、まぶしすぎた。 鈴を鳴らすように「」と名前を呼ばれるたび、めまいすら感じた。 そんな彼女にも、背中に黒い影がまとわりついていることに気づいたのは、いつだったか。 「…アイリス」 ささやくように呼びかける。 細い肩が震えて、壁のほうに向けられた顔はわからない。 私はそっと背を撫でて、もう一度呼んだ。 「ぱぱ…まま…」 嗚咽交じりの声が呼ぶのは、彼女の大好きな両親。 私は親というものを知らないからよくわからないけれど、遠く離れていても変わらない愛情はあるのだとアイリスは教えてくれる。 覗き込んだ頬が濡れていた。私はそっとそれを指で掬う。冷たくてきらきらしていて、いつかアイリスがきれいだとはしゃいでいた朝露に似ていた。 舐めてみると、塩辛い。海はしょっぱいから涙でできているのかな、とアイリスが無邪気に訊ねてきたことを思い出した。 「アイリス」 暗い部屋でひとり泣きながら眠る少女を想った。 名前を呼ぶ以外に私になにができるだろう。 アイリスが笑ってくれる言葉を探す。 そしてひとつだけ、思い出した。アイリスがいつもくれるそれ。おなじように返すと、はじくような笑顔を見せてくれる。その笑顔が好きだった。 私はアイリスの耳元にくちびるを寄せて、ささやきかける。 「だいすきだよ、アイリス」 アイリスの顔が、ほんのすこし、やわらいだ。
僕に言えることは、ひとつしかないから
「…?」 「起きたの?」 「うん。…」 「なに?」 「ありがとう。聞こえたよ、の声」 「…うん」 |