抑えた右目から止め処なく流れ落ちる雫は鉄の味がした。 かろうじて見える左目が捉えるのは、どうしようもなくレニだけで、まったく自分はほんとうにどうかしていると。(笑えてくる) 「…ッ」 切羽詰まったような声はすこし前までは聞くこともできなかったのに、いつのまにこんなに成長したのだろうと、悠長なことを考えながら、ずきずきと痛む右目の傷をわざと指でなぞってみる。 この傷を作ってくれた敵はもはや虫の息で、たぶんあと数分もすれば死ぬのだろう。だけど私にとって重要なのはそんなことではなくて。 「、いま救護班を呼んだ。応急処置をするから、手をどけて」 言われたとおりにすると、レニは一瞬息を詰まらせた。 いままで見たこともないようなうろたえぶりで、手だけが冷静に処置を行う。 レニの指先が私の血で汚れていくのが、可笑しくてしかたがなかった。 私は笑い出したいのをなんとか堪えて、レニを観察する。 すこしだけふるえたくちびる。揺れる瞳。青ざめた顔。 いつも冷静なレニが動揺している。ほかでもない私のために。 愉悦がこみ上げる。 レニを変えたのが私でなくても、いまこの場で彼女をこれほど揺さぶっているのは私だ。私だけだ。 その事実が私を歓喜させ、怖いほどのしあわせをもたらす。 なんて歪んだ、私。 「」 弱々しいアルトの声が呼ぶ。 もう先ほどのような激しい動揺はなくて、それが残念だった。 「、この傷は…」 「わかってる」 あまりに悲しそうに告げようとするから、その言葉を途中で遮った。 わかってる。この傷は網膜まで達していて、だからきっと傷がふさいでも。 けれどそんなことは些細なことだ。だって、 「私はレニが無事なら、それでいいよ」 私はめずらしくこころからの笑顔を浮かべられたと思う。 その証拠に、レニは痛むような顔をして、目を伏せた。 それが私の笑みをよけいに深くさせる。 レニ。私のあこがれ。私の希望。私のけして持ち得ないものを持つ少女。 あなたのために私は傷つく。あなたのためだけに。 それが私のゆいいつの望み。生きる理由。 だって私が傷つけば、 (あなたもきっと傷つくでしょう) その未完成なこころで、さめざめと泣くのでしょう。 私の痛みを想って。ああそれは、
なんて甘美な、(狂気)
( ああだれかにどときえないきずをくださいそうしてわたしはかのじょのなかで、えいえん、になる ) |