雲ひとつない晴天の昼下がり。
 は芝生に大の字になって寝転がった。
 今日、たち幼稚舎の年少組は、年長組と一緒に、先生の引率のもと、近所の公園まで来ていた。まあつまりなんの変哲もないお散歩である。
 晴れの日に青空の下で食べるお弁当はおいしい、というのが動機なのか、昨今の運動不足の子どもたちを案じて、なのかは悩むところであるが。

「おねーちゃん、いかないの?」

 ふいに、視界に広がる晴天をさえぎり、見慣れた顔がを覗き込んできた。

「祐巳」

 の双子の妹は、疑問符を浮かべながら首をかしげた。

(…かわいいなオイ)

 同じ顔にそんなことを思うを、ひとはナルシストと呼ぶだろう。
 けれど違う。顔つきというのは、そのひとの人格を真っ正直に表すものだ。
 すでに20年、生きてしまったことも含めて、はそこらにいるひとと同じくひねくれた部分がある。鏡を見ても、自分がかわいいなんて間違っても思わない。
 しかし、祐巳は違う。まっさらで純粋で、しぐさや表情のひとつひとつがかわいらしいのだ。
 祐巳はある意味で天才だ。おもにの萌えポイントをつくことにおいて。
 思わずふくよかなほっぺたに手のひらを当てると、くすぐったいのか身をよじってくすくす笑った。

(……か わ い い な オ イ !!)

 は吹き荒れる萌え旋風を必死で押さえ込んで、言った。

「行ってきなよ。私はここで昼寝してる」
「おひるね?」
「うん。祐巳は遊びたいでしょ? いっといで」
「…んー…」

 祐巳は何ごとか、考え込む様子で虚空を見上げた。
 そして唐突に、の隣にころんと横になる。

「祐巳?」

 行かないの、と問うと、うん、と祐巳が肯いた。

「おねーちゃんといっしょにいたいから」
「………」

(この子は私を萌え殺す気だろうか)

 赤くなった頬を見られまいと、は祐巳に背を向けた。

「な、なんでそっちむくのー?」

 不満そうな声を上げて祐巳がの肩に手をかける。
 それがまたの弱点(萌えポイント)をついてきて、はなおさら祐巳に顔を向けられなくなる。
 祐巳はむぅ、とうなると、突然、の背中から抱きついてきた。

「祐巳?」
「えへへー」

 ぴったりくっついているのがうれしいのか、祐巳は緩みきった顔(振り向かなくてもわかる)での背中に頬ずりしてきた。

(……おまえはそんなに私を殺したいのか)

 は振り向くことも離れることもできなくなって、あきらめて力を抜いた。
 小鳥のさえずりが聴こえる。のどかな昼下がり。さわさわと揺れる木々の音に耳を傾けながら、ふたりはいつのまにか、眠りに落ちていた。



のどかな午後のお昼寝タイム



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up data 08/01/14