指先に触れる あなたはまるで太陽のよう



 令は軽く目を見開くと、ふしぎそうに私を見た。
、どうしたの?」
「いやー、令って髪きれいだよね」
「え?」
 驚いたような顔をして、令は笑った。
「そんなことないよ。私、髪短いし」
「長さは関係ないよ」
 令の前髪に指先を触れる。

 爪先立ちになっていた私を気遣って、令がさり気なくかがんでくれた。
 こういうところが、王子さまなんだろうな。
 私は思いながら、微苦笑する。
 令って本当は、誰よりも女の子なんだけど。

「令の髪って、太陽みたいだよね」
「太陽?」
「きらきら光って、眩しくて」
「なにそれ」
 くす、と令が笑った。
「でも、さらさらしてる。手入れとかしてるんでしょ?」
「…まあね」

 令は結構、そういうことを気にするタイプだ。
 逆に由乃ちゃんは、無頓着。
 令が気遣って、あれやこれやと買い込んでくるのを、むしろ鬱陶しそうにしているらしい。
 折角かわいいのに、と令が嘆いてたっけ。

 思い出して、笑ってしまった。
「なに、笑っているの?」
「うん、ちょっと。…令って、ほんとに由乃ちゃんが好きなんだな、って」
「……うん」
 令が、嬉しそうに笑った。
 私も笑い返して、手を放す。
 一瞬の沈黙。

「…ね、
「うん?」
 令はそっと近づいて、私の髪を一束手に取った。
の髪も、きれいだね」
「うそ。私、手入れとかぜんぜんしてないよ」
「でも、きれい」
 …そんなにまっすぐ言われてしまうと、照れる。
 私は令から目を逸らした。

「そういうこと、ほかの子にも言ってるんじゃないの?」
「言ってないよ」
「令ってやさしすぎるからな。…乃梨子ちゃんのときだって」
「あれは演技だったって言ったじゃない」
 令が困ったような顔をする。
 私は内心で舌を出した。
「どーだか」
ー…」
 そっぽを向いて見せると、令は情けない声を上げた。
 黄薔薇さまが形無しだよ、令。

待ってよぉ」
「情けないなぁ、令は」
 私はからからと笑って、肩越しに振り向いた。
「そんなんじゃ、由乃ちゃんに怒られるよ?」
…ッ」
 慌てて追いかけてくる足音。

「言ってないからね、私は」
「はいはい」
 生真面目な令は、真剣にそのことを弁解しようとしている。
 それが可笑しくて、私は笑いを堪えるのに必死だった。
聞いてよ」
「聞いてるよ」

「わーかってるって」
 ふと、令が立ち止まった。
 釣られて私も立ち止まる。

「どうしたの?」
「………」
 令はすっと手を伸ばすと、私の髪に触れた。
「?」
「……

 まっすぐに向けられる眼差しに、囚われた。
 令はじっと私を見据えると、一言。
にしか、言ってない」
 強い光りを湛えた瞳に、私は微笑んだ。
「わかってる」

 令はやっぱり、王子さまだ。



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up data 04/9/4