季節はずれの紅葉たち 「あれ、蓉子日焼けしてない?」 「ああ、このあいだ友だちと海に行ったから」 「へぇー、そうなんだ。ちょっと見せて」 「なっ―――!?」 殴られました。 5分後、はベッドに突っ伏して泣いていた。 「うっ…うっ…」 「なにを考えているのよ、あなたは!」 蓉子が顔を真っ赤にして眉をしかめている。 「ちょっと日焼けのあと見ようと思っただけじゃなーい。痴漢に遭ったわけでもあるまいし、なんで平手なのよー」 「ひとのシャツをいきなりめくるのは痴漢じゃないの!?」 「いいじゃんちょっとぐらい」 「よくない!」 というか痴漢であることを否定していないあたり性質が悪い。 左頬に真っ赤なもみじをつけたは、ぐすんと鼻をすすった。 蓉子はじろりとを見やり、ため息をつく。 「だいたい、どうしてわざわざ日焼けのあとなんて見たがるのよ」 「いや、ビキニかどうか確かめようと」「口で言って事足りるじゃないの!!」「だってそれじゃつまんないし」「…!!」 の非常にばかげた、それでいて自己中心的な物言いに、蓉子はとうとう頭を抱えた。 が心配げに覗き込む。 「大丈夫?」 「だれのせいよ…!」 すかさず突っ込みつつ、頭痛がするといわんばかりにこめかみを指で押さえた。 はすっかり立ち直り、きらきらと目を輝かせて訊ねてくる。 「で、どうなの? ビキニなの? 違うの?」 「違うわよ」 「えー、つまんなーい。じゃあわたしと行くときはビキニで」 「なんで」 「もちろんわたしが見たいから☆」 「……(もう一回ぶっておこうかしら)」 「(殺気?)」 動物的本能で危機を察知し、すばやく蓉子と距離を取る。 「いいじゃない蓉子。ほら、わたしとあなたは深くて強ーい絆があるでしょ?」 「深くて長い溝ならすぐそこに」 「ひ、ひどいっ!」 一瞬にして目に涙の幕を張る。もちろん演技だ。 「今年いちばんに蓉子の水着姿を拝むのはわたしのはずだったのに、なのに蓉子ったらべつの女と! その上わたしにはビキニ見せてくれないなんて! ビキニ姿! 蓉子のビキニ!」 「あああ、もう! ビキニビキニ連発しないで恥ずかしい! どうしてわたしが浮気がばれた彼氏のように責められなきゃいけないのよ、友だちに!」 「友だちなの?」 「えっ…」 いきなり真顔になったに、蓉子は一瞬目を泳がせた。 「と…友だちでしょう?」 「友だち…なの?」 「な―――」 手足をついて、まるで猫のような動きで蓉子に近づいてくるを、蓉子は動揺をあらわに見つめる。 「なに…言って」 「わたしは…違うよ」 「え…」 はまっすぐに、真剣な眼差しを向けてくる。 そのどこか色の違う、ひどく艶かしい視線に、蓉子は身動きを封じられていく。 するり、と蓉子の脇に右手が、肩に左手が置かれた。 後ずさろうとする蓉子を押し止め、の顔が、間近に迫ってきた。 「蓉子…」 僅かに掠れた声に呼ばれ、蓉子は思わず息を呑む。 唇にの吐息を感じると、背中が粟立った。 「…」 「蓉子」 「ちょ…っと、待っ―――」 「―――なんちゃって」 「…え?」 がらりと雰囲気が一変したに、蓉子は固まった。 「いやー、蓉子が動揺するところなんてめったに見られないから、ちょっと得しちゃった!」 「……」 「やっぱりこのテがいちばん効くんだね。さっそく江利子に知らせなきゃ」 「…」 「なに?」 「あなたまさか」 「うん!」 みなまで訊かずとも、は察して陽気に頷いた。 「蓉子をからかう効率のいい手段を江利子と相談して、実験してみようってことになっちゃってサ☆」 てへ、許してネ、とハートマーク付きで、ペ●ちゃんばりに舌を出す。 それを向けられた蓉子は、俯き、肩をわななかせる。 結果。 殴られました。 |