留守電 抑え切れなかった感情 『、私』 名乗れよ、聖。 私の家族が聞くとは、ぜんぜん思っていないね、あなた。 心の中でつっこみながら続きを待ったけど、聖はしばらく沈黙していた。 『あのさ、。今一緒に居た人、誰?』 今? 私は首を傾げた。 『あ、今っていうのは、放課後のことね。マリア様の前で、誰かと話しこんでいたでしょ?』 ああ、思い出した。 マリア様の前でお祈りをしていたら、あの人に声を掛けられたんだった。 『あれ、だれ?』 聖の声は、少し強張っているようだった。 『姉妹はいなかったよね。やけに仲良さそうだったけど…友だちって感じでもなかったし、それに、』 留守電なのに、まるで詰め寄られている感じだ。 『なんで抱きしめられていたの』 どこか怒ったような声に、私は驚いた。 いつもふざけていて、冗談ばかり言っているのに。 『、あの人に会うために私の誘いを断ったの?』 ちがう。 あれは本当に、偶然というか、あの人のいたずらだった。 私を驚かせるための。 『も笑って抱きしめ返していたし…どういう関係なの?』 なんだか、恋人に浮気を疑われているような感じ。 私は頬を掻いた。 でも、聖だって祐巳ちゃんによくじゃれついているし。 あれとどう違うんだろう? そもそも、どうしてそんなことを気にしているのか、私はよくわからなかった。 聖は一拍置いて、突然「ごめん」と謝った。 『いきなり、変なこと訊いて悪かった。でも、ちょっと…いや、すごく気になったから』 真剣な声から、彼女がどんな顔をしていたのか、想像してみる。 人のこと、からかってばかりなのに。 いったいどうして、突然…。 『…本当は、ずっと黙っていようって思っていたんだけど』 そこで一旦言葉を切って、聖は黙り込んだ。 長い沈黙が続く。 もう残り時間がない。 このまま切れてしまうかな、と思った矢先、聖が言った。 『、好きだよ』 ―――プツッ、ツー、ツー、ツー 日にちと時刻が流れる。 私はしばらく固まり、そののち、大爆笑してしまった。 笑い終えて、私は受話器をとった。 聖に電話するために。 そして教えてあげよう。 あれが、久々に帰郷した、実の姉であることを―――――…。 |