どっちもどっち 「聖」 「はい」 「こ・れ・は・な・に・か・な?」 「プ…プリクラ、かな?」 「ほほう。で、映っているのは?」 「わたし、だね」 「ふむふむ。で、隣にいるのは?」 「と…友だち?」 「……へぇ」 「(あ、やばい)」 「お・ま・え・は…ッ友だちとチューするんかーい!!」 ☆一徹ばりにちゃぶ台を返すに、聖はなすすべもなくはたかれるのだった。 「で?」 きっちりつま先まで揃えて正座させられた聖と、テーブルを挟んで向かい側に陣取る。肘をついて顎を乗せ、半眼で聖を睨んでいる。 「もう一回訊くけど…だれ?」 「え、えーと」 「だれ?」 「あー、そのー」 「だ・れ?」 「…後輩の女の子です」 「ほほーぅ」 すぅ、とすぼめられた瞳に、冷や汗を浮かべる聖。 はじろりとテーブルのちょうど真ん中に置かれたプリクラを見やる。 楽しげに笑っている少女ふたりに険しい顔をいっそう険しくさせる。 「……聖」 「なんでしょう」 「これで何度目だと思ってる?」 「……(えーと)」 虚空を見やり、心の中で指を折って数えてみる。 「…五本じゃ足りないね」 「よくわかっていらっしゃる」 薄っすら笑われて、逆にちょっと怖い。 「なんでこう何度も何度も飽きもせず浮気を繰り返しますかねあなたは」 「い、いやー、それがあんまり可愛くてさぁー」 言った瞬間に室内温度が3℃降下。 固まった空気にこれはやばいと察知する聖だったが、は俯いたまま震えているのみで、手を出そうとはしない。 「?」 「……」 「さーん?」 「……」 「もしかして…羨ましいの?」 ぴしり、と。 固まった空気がさらに凍りついた。 室内温度、氷点下に達する。 「やだなぁ。言ってくれればいいのに」 「……」 「なんならする? 今すぐにでも」 「…聖」 「ごめんね、。あなたの気持ちに気づいてあげられなくて」 「聖」 「うんうんわかってる。それじゃあさっそく出かけようか―――」 「せ・い」 静かに、低く、一文字ずつ区切って、強く発音するの声に、聖は口をつぐんだ。 が満面の笑みを浮かべる。 そろそろ本格的にまずい状況だ。 しっかり者と評判の親友がここいれば、額に手を当てて天井を仰いだだろう。 要するに。 「あなたひとりで逝ってきて?」 目も当てられなかった。 翌日の薔薇の館。 あいにくと今日は会議も休みで、かの紅薔薇さまは所用とかでどこぞへ出ている。 今いるのは、いつもどおりアンニュイな黄薔薇さまと、なぜか頬を腫らした白薔薇さまだけ。 黄薔薇江利子は紅茶を一口すすると、聖を見やり、一言。 「ばか?」 「うわぁイタイ」 へらりと力なく笑って顔を上げる白薔薇さま。 「わざわざちゃん怒らしに行って、そんなに殴られたいの?」 「いや、そんなひとをマゾみたいに」 「どう考えたってマゾでしょう。わざと浮気してわざと見つかってわざと怒られて。構われたがりの白薔薇さま?」 「あはは。だってさー、可愛いんだもん」 怒ってる。―――のん気に笑ってのろける親友を一瞥し、江利子はため息をついた。 今ここにいないもうひとりの親友は、さぞかし呆れ顔で可愛い後輩に同情することだろう。こんなばかに引っかかってしまって。 ぎしぎしと荒い足音が階下から聞こえ、聖が顔を上げる。 僅かに期待の入った表情に、江利子は呆れの眼差しをやった。 扉が開かれ、入ってきたのは予想通り。 「聖ー!」 「え、?」 「あんた今朝もまた一年に手ぇ出したでしょう!?」 「うわ、もうばれたの?」 「こっの…ばかぁー!」 見るひとが見ればもろばれな、しあわせそうな顔をしている聖と、本気で怒っているようで、じつは聖の望みどおりの反応を見せているだけのを見比べ、江利子はあくびを漏らした。 (なにか面白いこと、ないかしらねぇ) 山百合会は、今日も今日とて、おおむね平和である。 |