いい話には裏がある



 ピンチです。




「なにか」
「あなたね」
「なんでせう」
「どういうこと?」
「と、申されますと」
「真っ白じゃないの!」
「ご、ごめんなさぁいっ!」

 テーブルを叩く音には首を竦めた。
(だってだってだって、)
「だって「じゃない!」はひ…」
 蓉子の勢いに思わず正座。
「あれほど宿題は最初のうちにやっておきなさいって言ったのに」
「ご、ごめん…」
「数学は苦手なんだから、余裕を持って片付けなさいって言っていたでしょう!?」
「よゆーよゆーって思ってたら、いつのまにか新学期だった」
「…ッ」

 蓉子が額を抑えてうめく。
 は心の中でひっそり思った。
 ばかでごめんね。

「蓉子、あのさ、」
「だめよ」
「ま、まだなにも言ってないYO!」
「(YO?)…どうせ写させてって言うつもりでしょう?」
「え、ちがうよ。教えてって言うつもりだったんダヨ?」
「………」

 白々しい。
 蓉子の疑いの視線に、はあからさまに顔を逸らす。
 おまけに口笛まで吹きはじめる始末。
 しかも吹けないので間抜けな空気音しか出ない。

 蓉子は脱力しそうになるのをなんとか堪えた。
「わかったから…その口笛のなりそこねを止めて」
「え、じゃあ写させてくれるの!?」
「言ってること違ってるわよ」
 冷静に突っ込んで、ため息。
「教えてあげるから…持ってきなさい」
「わっほう! やっぱり蓉子はお節介だね!」
「…いいから持ってきなさい…」
「はぁーい」
 は国語1だった。


「…それで、こうなるのよ。わかった?」
「ぜんぜん」
 きっぱり。
 蓉子が呆れたようなため息をついた。
「あなたね…真面目に聞いているの?」
「え、うーん、微妙?」
「………」
「(やべ、怒った)聞いてたよ。聞いてたけどさぁ、なんていうかもう無理って言うか最初から最後まで理解不能っていうか」
 蓉子の射殺すような視線に、冷汗が大量発生。

のそれは、理解しようっていう気がないからそうなんじゃないの?」
「や、っていうか、能力の問題?」
「生まれつきだとか、そういう言い訳で逃げているだけでしょう」
「…厳しいなぁ…」
 は苦笑しながら、かりかりと後頭部を掻く。

「当然。いつまでも面倒見ていられないんだから」
「それは困る」
「でしょう? だったら、いつまでも私を頼らないで」
「うー」
「うーじゃない」
「…はい」
 蓉子が満足そうに笑った。

「さ、つづけるわよ」
「…でも…」
「なに?」
 はテーブルに額をくっつけると、ぼそぼそと言う。

「よーこがいなくなるのは、やだなぁ」

 蓉子は軽く目を見開いた。
「蓉子、ほかの大学受けるんでしょ。そうなったらこんなふうに会えなくなるし…」
 拗ねたような口調。
「ずっと友だちでいたいなぁ」
…」
「いつでも気軽に、遊びに誘えるような友だちでいたい…」

 蓉子はを見つめ、困ったように眉を寄せる。
「なに言っているのよ、
「…蓉子…」
「あなたね、」
 ふっと一瞬目を伏せて、蓉子は微笑った。

































「そうやって時間稼ぎして、結局私の宿題丸写しするつもりでしょう!」
「げっ、ばれた!」
「いいからさっさとやりなさい!!」


 この日、の部屋は、夜遅くまで明かりがついていたという。



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up data 04/9/1
マリア様好きに50のお題「24:宿題」
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