リサイクル 「わたし、掃除には自信あったのにな」と泣き出しそうな顔でさんが言った。「どうかしたの」と訊き返せば、「うーん」と少し言いづらそうにして笑う。 あのね、片付け上手っているでしょう。うなずいて続きを促す。それって要るもの要らないものを選り分けられるひとのことなのよね。 「そうね」と同意すれば、さんが困ったような顔をして、ため息をついた。「わたし、それには自信があってね、捨てるときはきっぱりしてるほうだと思ってたの」 自分では、と付け足して肩を落とす。 違ったの、と問えば、そうみたい、と力ない返事。 さんはいつも明るくて前向きで、日常のなんでもないことの中の些細な面白さを器用に見つけては私に教えてくれるので、私はさんを気に入っていた。そんな彼女がどうにも落ち込んでいるのを見て、柄にもなくつい気遣わしくなってしまった。 「もう捨てよう、捨てようと思ってるのに、なかなか捨てられないのよね」 さんのちょっと暗い表情が私に笑いかける。私は「そう」と呟いて、さんの顔を見つめ返した。さんは私と視線が合うと、さらに困ったような顔をして、窓に目をやった。 しばらく沈黙して、さんが口を開いた。「あのね」 さんは「あのね」が口癖のようなもので、彼女が口を開くと大抵「あのね」が先に出る。前にそれを指摘したとき、子どものころからそうだったと恥じ入るように言っていたのを思い出しながら、続きを待つ。 捨てたいものがあるの。さんがさっきと同じように泣き出しそうな顔で言った。捨てたいものがあるのだけど。繰り返し言った。 捨てればいいじゃない、と答えれば、それができないから困ってるのよ、とさんが俯いた。その泣きそうな横顔を見ているうちに、泣けばいいのにと思ってしまった。だってあまりにもつらそうだから。いっそのこと泣き出してしまえと祈った。 けれどさんにその祈りは通じず、話が続く。 「どうしてなのかしら。捨てようとしても戻ってくるの」まるで呪いみたいねと言うと、ああそうかもとさんが弱々しく笑った。 そうなの。呪いみたいなの。わたしはきっと呪われているんだわ。さんが何度も何度もうなずく。私は肩をすくめた。「呪いなんてあるわけないじゃない」 呪いなんてないわ。戻ってくるのはそういう気がするだけで、あなたはじつは捨ててすらいないのよ。きっとそうに違いない。 「そうかしら」「そうなのよ」「そうかもしれない」「きっとそう」 延々同じ会話を繰り返し、さんがようやくほんとうに納得したように、「そうなのね」と呟いた。 ありがとう、これでやっと捨てられそう。笑うさんを立ち上がって覗き込み、「捨てる必要ないわ」。さらに続ける「それ、私にちょうだい」。 さんが驚いたように目を見開く。「江利子さん、わたしの捨てたいもの、知っていて言っているの?」「もちろんよ」「ほんとうに?」「得体の知れないものなんて、欲しがるわけないじゃない」 さんがますます驚いた顔をする。私はおかしくて笑ってしまいながら、繰り返し言ってやった。 「ねえ、お願い。あなたのそのすき=A私にちょうだい」 目を真ん丸くしたさんがかわいくて、私はついきす≠してしまった。 |