いもうと 姉視点



残酷だとはわかってる
でももう少しだけ、私のために苦しんで


かわいい、かわいい、私のいもうと=\―――…




「聖」
 名前を呼ぶ。
 聖はベッドにうつ伏せたまま、顔だけを私に向けた。
 私は静かに立ち上がる。
 聖の視線を受けながら、ベッド際に座った。

 手を伸ばし、ざんばらに切られた髪を一束、摘み上げる。
「眠い?」
「…うん」
 さらさらと流れていくきれいな髪は、べつに特別気を遣っているわけではない。
 ものすごく羨ましい体質だ。

 髪を撫でると、聖は気持ち良さそうに目を細めた。
 ゆるり、と微笑。
 なんて可愛いんだろう。

 手を止めると、聖が身体を仰向けにし、私を見上げる。
姉さん」
 私の指に自分の指を絡め、そっと頬に持っていく。
 冷たい聖の肌が、私の指先に触れた。

 手のひら全体を押し付けるように、聖は私の手を自分の頬に当てた。
 可愛い。
 愛しさがこみ上げてきて、私は両手で聖の頬を包んだ。

「聖」

 呼ぶと、聖は甘えるように私の手を握った。
 猫のようなしぐさで擦り寄ってくる聖に、私は笑う。

姉さん…好き」
「そう」
「大好き」
「うん」
「…愛してる」
「わかってる」

 聖は口を噤んで、私を見つめる。
 きれいな双眸が私を貫く。
 私は微笑を崩さずに、聖を見つめ返した。

「……姉さん」
「なに?」
姉さん」
「どうしたの?」
「姉さん…」

 聖が、ふ、と目を細める。

――――」

 次の瞬間、ひどく切なげに、顔をゆがめた。
「――――姉、さん」
「うん…?」
 そんな聖の表情を気づかないふりで、私は僅かに首をかしげる。
 聖は目を伏せて、小さなため息を落とした。

「聖?」
「なんでもない」
「そ? なにか言いたいことでもあったんじゃないの?」
「…べつになにも」
 声に微かな動揺の色。

 私はひとつ微笑んで、聖の額に私の額をくっつけた。
「悩み事?」
「………ないよ、そんなの」
 それだけで、聖の反応が鈍りはじめる。
 私は可笑しさを堪えるのに必死だった。
「私に言えないことでもあるの?」
「…ないってば」
 聖は私から逃れようと、握っていた手を引き剥がしにかかった。

 私はあっさり手を放し、代わりに起き上がろうとした聖の身体を上から抱きしめる。
「ちょっ…姉さん!」
「ふっふっふ。おねーさんに隠し事なんて百年早いわよ」
 力いっぱい抱きつけば、聖が息を詰まらせる。

「はっ…なしてよ…!」
 私の肩を掴んだ手は、熱い。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃなーい」
 不満げに唇を尖らせれば、聖は私から顔を背ける。

「うわ、聖、耳真っ赤」
 きゅっと聖の耳たぶを摘む。
 聖は軽く肩を震わせ、仰け反った。
「ッ…姉さん!」
 焦りの色が浮かぶ。
 私は笑って、聖を解放してやった。

「聖ってば、可愛いんだから」
「……」
 聖はぱっと私から離れると、乱れた髪を掻きあげた。
「さて。下行ってコーヒー入れてくるよ。聖もいる?」
「…いい。私、これから出かけるから」
「どこに?」
「…友だちのところ」
 そう、と私は笑って、汗ばんだ聖の額を、そっと撫でた。
 聖の頬の赤みには、けっして気づいていない素振りで。




残酷だとはわかってる
でももう少しだけ、私のために苦しんで


かわいい、かわいい、私の義妹=\―――…



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up data 04/10/28