特別でないただの一日、でない一日 10「佐藤聖」 駅の構内のベンチに座る。 電光掲示板に、次の電車の時間が表示される。 あと三分。 コートの襟を合わせ、できるだけ寒さを避けるように、身を縮めた。 っていうか、遅すぎるよ聖さん…! 電車がホームに滑り込んでくる。 軽い風を感じて、私は顔を上げた。 視界に入るすべての車両に目をやり、見知った顔を捜す。いない。 うーん、どこかでだれかと遊んでるのかなぁ? まあ、あの人のことだから、その可能性もあるにはある。っていうか高い。 私はため息をついて、項垂れた。 やっぱりあのとき言っておけばよかったかな。 帰ろうかな、という考えが、一瞬頭をよぎった。そのとき。 「さん?」 驚いたような声が、私の耳に飛び込んできた。 顔を上げると、ひとの群れを掻き分けて、聖さんが走ってくるのが見えた。 そんなに慌てなくても、逃げたりしないのに。 聖さんは私のもとまで来ると、軽く乱れた息を整えることもせず、私の肩を掴んだ。 「なに…なにしてるの?」 その尋常でない様子に、私は戸惑いながらも、答える。 「聖さんを待っていたの」 「私…を?」 目を軽く開いた聖さんは、ようやく落ち着いてきたのか、長いため息をついて、笑った。 「びっくりした…。でも、なんで私を?」 「だって、クリスマスイブじゃない」 その返答に、聖さんは一瞬きょとんとして、困惑したように頭を掻く。 「えっと…、でも、さん私とは、過ごしたくないんじゃなかったの?」 「なんで?」 「だって逃げたじゃない」 むくれた顔を見せる聖さんに、思わず笑ってしまった。 「さーん?」 「ごめんごめん。だって、あの三人のうち、あえて聖さんを選んだら、あなたぜったい調子に乗ると思ったから」 「なにそれ。私ふられたと思って、すっごくショックだったんだからね?」 「すいませんでした!」 腰に両手を当てて、怒った<|ーズを見せる聖さんに、私は堪えきれずに笑いながら謝る。 「むぅ…まあいいけど。それで、いつから待ってたの?」 「えっと、10分かそこら」 「…で、ほんとのところは?」 「30分」 見透かされて、つい苦笑。 聖さんは肝心なところでは鈍いくせに、ときどき嘘を見破る。 「30分か…」 ふと真顔になり、聖さんは足元に目を落とした。 その様子に、私はふと、一年前のあの話を思い出した。 駅のホームで、彼女を待ちつづけた白薔薇のつぼみ≠フ話。 それを、思い出させてしまったのかもしれない。 私は堪らなくなって、聖さんに抱きついた。 「さん?」 「すっごい寒い。だからあっためて」 聖さんは、しばらく戸惑っていたけど、私の背に両腕を回した。 一瞬のためらいを感じる。でも、力いっぱい抱きしめられた。 「どっか遊びに行く?」 聖さんの腕の中で訊いてみた。 「…いいや。家帰って、今夜は一晩中いっしょに居よう」 それだけでいいと、聖さんは言った。 私は小さく頷いて、目を閉じる。 うん、もう大丈夫みたいだ。 |