いとしき貴女へ 「意外と照れ屋」 蓉子さんはしばらく足元を見つめていたかと思うと、すっと顔を上げて、私を見た。 「さん」 「え、あ、はい」 なんでしょう、とちょっと間抜けな返事をすると、蓉子さんは後ろ手に持っていたそれを私の前に出す。 それは、正方形の小さめの箱で、きれいなラッピングが施されていた。 …これは、えーっと。 「チョコ…だよね?」 思わず訊ねると、蓉子さんは薄っすらと頬を染めて、小さく頷いた。 うっ、かわいい…じゃなくて! 「これ…私に?」 「えぇ。…受け取ってくれる?」 どこか不安げな表情。 いつも毅然としているだけに、そのギャップに驚く。 私は戸惑いながらも、手を伸ばし、箱を受け取った。 手に取る瞬間、指先が微かに触れ合う。蓉子さんが小さく肩を震わせ、けれど、ゆっくりと手を引いた。 「あ…ありがとね」 「…うん」 蓉子さんは顔を俯けた。 髪の間から覗いた耳が、真っ赤になっている。 なんかもう、ほんと可愛いひとだなぁ。 私は声を殺して笑った。 その気配に気づいたのか、蓉子さんが顔を上げる。 「なに?」 「いや、ちょっと」 「なによ…」 赤い顔で、照れたような怒ったような顔をする蓉子さんを見て、口元に手を当てた。 「可愛いね」 「…え?」 「蓉子さん」 一拍置いて、さっと顔を赤らめる蓉子さんに、堪えきれずくすくすと笑った。 「こんなに可愛いひとだとは、思わなかった」 「…なによ、それ…」 蓉子さんは私から目を逸らすと、軽く顔を伏せた。 さっきまでの戸惑いはどこかへ行ってしまったみたいだ。 ホワイトデーのお返しは、さて、どうしようかな。 |