いとしき貴女へ 「私から」 蓉子さんが、面白いほど見事に硬直した。 それから、みるみるうちに赤面していく。 あー、じつは照れ屋だって聞いたけど、本当だったんだなぁ。 なんて、他人事みたいに思いながら、私はその様子を見つめていた。 「え、あ、の…えぇ?」 「うん、落ち着いて蓉子さん」 まさか私が、蓉子さんに落ち着きを促すことになろうとは。 いつもと逆の立場に、つい笑ってしまう。 それをどう勘違いしたのか、蓉子さんは赤い顔のまま眉根を寄せた。 「さん、からかっているの?」 「違う、違う。これはほんと。本気の本気」 「ッ、本気、って…」 蓉子さんはとうとう私から顔を背けて、口元に手を当てた。 耳まで真っ赤だ。 なんか、可愛いなぁ。 こんなに可愛い反応が返ってくるとは、思ってもみなかった。 私の予想では、いつもと同じ笑顔で、ありがとうの一言で済まされるとばかり思っていたので。 この予想外の出来事は、一生記憶に残りそうだ。 私は手にした箱を蓉子さんに再度差し出す。 「で、受け取ってくれるの? くれないの?」 首をかしげて顔を覗き込めば、蓉子さんは僅かに視線を泳がせて、それでもしっかりとチョコを手に取ってくれた。 赤い顔で、それでもまっすぐ私を見つめて、蓉子さんは笑った。 「ありがとう」 想像していた笑顔とは違ったけど、むしろこっちのほうが嬉しくて、私も笑い返す。 勇気を出してよかったと、心底そう思った。 |