いとしき貴女へ 「私から」



 蓉子さんが、面白いほど見事に硬直した。
 それから、みるみるうちに赤面していく。
 あー、じつは照れ屋だって聞いたけど、本当だったんだなぁ。
 なんて、他人事みたいに思いながら、私はその様子を見つめていた。

「え、あ、の…えぇ?」
「うん、落ち着いて蓉子さん」
 まさか私が、蓉子さんに落ち着きを促すことになろうとは。
 いつもと逆の立場に、つい笑ってしまう。

 それをどう勘違いしたのか、蓉子さんは赤い顔のまま眉根を寄せた。
さん、からかっているの?」
「違う、違う。これはほんと。本気の本気」
「ッ、本気、って…」
 蓉子さんはとうとう私から顔を背けて、口元に手を当てた。
 耳まで真っ赤だ。

 なんか、可愛いなぁ。
 こんなに可愛い反応が返ってくるとは、思ってもみなかった。
 私の予想では、いつもと同じ笑顔で、ありがとうの一言で済まされるとばかり思っていたので。
 この予想外の出来事は、一生記憶に残りそうだ。

 私は手にした箱を蓉子さんに再度差し出す。
「で、受け取ってくれるの? くれないの?」
 首をかしげて顔を覗き込めば、蓉子さんは僅かに視線を泳がせて、それでもしっかりとチョコを手に取ってくれた。

 赤い顔で、それでもまっすぐ私を見つめて、蓉子さんは笑った。
「ありがとう」
 想像していた笑顔とは違ったけど、むしろこっちのほうが嬉しくて、私も笑い返す。

 勇気を出してよかったと、心底そう思った。



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up data 05/2/13